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作品1

 

 

「暑い・・・あぁ〜つぅ〜いぃぃ〜!」

今日も今日で真夏日が俺を襲う・・・
部屋の窓から外を覗けば、景色は陽炎で揺らいでいるし、
意識をすれば耳障りに思えてくる、セミの声と、低いうなり声を上げるエアコンにイラ立ちを覚える。

「エアコン効き悪いって・・・故障か?あとで事務員さんにでも言わなきゃなぁ・・・」

学園生活2年目の夏。そして寮生活2年目の夏でもあるわけだが
2年目にして自分の部屋が、地獄のような場所になるとは・・・
暑い。 それにしても暑い。 暑すぎて暑いとしか言えなく・・・
それほど部屋は蒸し、灼熱と化していた。

「秘書・・・避暑・・・この部屋はまずい・・・どこかにお邪魔しよう、そうしよう」

汗でべとついた体を、フローリングから引き剥がし、部屋を出ることにするが、
じんわり額に汗を浮かべ、べとついた体のまま誰かに会うのは気が引けたので、水で少し濡らしたタオルで体を拭いてやった。

「部屋より廊下のほうが涼しいとかどんだけ〜」

誰かに会うって言っても、その誰かなんて俺の中では最初から決まっている。
その誰かさんのいる部屋までの道はもう体が覚えているらしく、はじめの内は迷った寮内も最短ルートを通って行けるようになっていた。

トントン
「いるか〜?」

部屋の中からトタトタと小走りで走ってくる音が聞こえる。転ぶぞ?
開いた扉から、ひょっこりと黒い長髪の少女が顔を覗かせた

「なんですか?」

「よぉナツメ、いやー困ったことがあってさ・・・」

「・・・・・・・」

「だから、ちょっと部屋に入れt

「ダメ」

「うわー冷たい・・・」

「これから用事があるから」

「用事?」

少し不思議に思ってしまった。いつも部屋や屋上、研究室などで夏休みをつぶしているナツメが用事があると言ったからだ。

「・・・・・・」

なんで黙るんだ!
言えないような用事なのか!?

「買い物。それだけよ」

「買い物?生活用品やポケモン用品なら学園内のショップだけで事足りるだろ?」

「タマムシデパートじゃなきゃダメ!だから今支度で忙しいんで」

そういってドアを閉めようとしたが!ナイス俺の足!ダメージは43ってところか?

「一緒に行くってのは駄目か?ちょうど暇だったんだよ・・・駄目?」

「・・・もうすぐ支度終わるから待っててください」

「おぅ!」

ドアが閉まり中からまたトタトタと小さいあんよがせわしく動いているのが聞こえた。

「ゆっくりでいいのに・・・ホント、かわいいやつ」

そんな自己満足的な独り言を、ドアにもたれ掛かりながら言い、3分もしない内に背中に圧を感じた。

「え・・・!?開かない!?先輩!開きません!」

「あぁ悪い悪いw、今どくよ」

ゆっくりドアが開く。

「おまたせしました」

さっきは顔だけをドアから出していたため服は解からなかったが、今ようやく彼女のスラっとしたボディを拝められた。
今日の服装は涼しさを感じられる、肩まで露になった白いワンピース。ワンピースの色に負けないくらい白く細いナツメの腕と足が何とも言えないその・・・なんだ?まぁあまりこういうことは思わないでいよう・・・
それと、背中には少し大きめのリュックを背負っていた。

「俺あんまりここ来てから外に出かけないんだけど、やっぱバスで行っちゃった方がいいよな?」

「そうですね。」

「お前鳥ポケ持ってる・・・わけないよな」

ナツメは黙って首を立てに振った。

さて、園内からタマムシまでバスか、夏休みに入ってから利用者が増していて、とても乗り心地がいいと言えるものじゃないが仕方がない・・・

「よし、じゃあ行きますか」

二人でバス停まで向かった。調度よくバスが来る時間だったので、俺達は炎天下の下で待たされる事は無かった。

「あぁーやっぱバスは乗り心地が・・・うぉ・・・」

「あ、すいません」

「いえいえ・・・・・・はぁ・・・乗り心地最悪・・・」

そんな事をぼやき、ふと横のナツメを見ると、窓の外を無表情で凝視していた・・・
しかし、その瞳は少し輝いて見えたんだが・・・気のせいか?

しばらくバスに揺られ、足を踏まれ、エルボーをわき腹にくらいながら、タマムシシティまで無事到着。

俺とナツメはバスを降り、バス停からすぐ近いところにあるタマムシデパートにまっすぐ向かった。
外でのナツメはいつも無口だ。今もそうだ。俺のすぐ左後ろを黙って付いきている。
ナツメの細い指が俺のシャツの端っこを掴んで、一生懸命付いてきている。
ま、これは俺の妄想だがな。

デパートに入ると、冷気が体を包んだ。デパートのエアコンは俺の部屋とは比べ物にならないくらい快調らしい。

「さて、どこに行きたいんだ?」

適当に歩きながら本題を振ってやる。

「大丈夫、一人で済ませられる用事ですから。どこか適当にぶらぶらしていてください。」

「いいのか?俺は別にやることないし、なんなら一緒に行くけど?」

「へ、平気です!私一人で全然大丈夫だから!・・・では、2時にまたここで落ち合いましょう」

了解。そんな必死に拒まれちゃそういうしかあるまい・・・
さて、なんだかんだでタマムシデパートに来るのはかなり久しぶりだったので、俺は少しワクワクしながら色々な店を歩いて回ることにした。
そうすりゃあっという間に2時になるだろ?

俺は子供のようにはしゃいでいた。
夏用の私服を買ったり、おもちゃコーナーに行き、最近の玩具は進化しているんだな〜なんて関心したりetc...etc....
今思うと後悔している・・・

自分でも夢中になっていたのがわかる、俺は要約時計を気にしたんだ。楽しすぎて時間を気にするのはすっかり忘れていた。
時計を見ようと自分の腕を見るが、そこに忙しく動く秒針なんて無かったのだ・・・
俺は慌てて時計を探す!近くの店の時計を覗き込むと、時計の針は2時40分を過ぎていた。

「うわぁ・・・やべぇ・・・」

急いで待ち合わせ場所まで向かったが・・・いない
俺は自分の記憶を頼りにナツメの行動を考えてみる・・・前にも確かこんな事があった気がしたからだ。

「はぁ・・・じゃああそこだ・・・よし、全速力だぜ?オレンジ!」

俺は走った。デパートの中を走るなんて普通のヤツなら小走り程度だろうが、そのときの俺は全力疾走と言う言葉がぴったりだ。

「ハァ・・・ハァ・・・」

デパートを出て、ナツメがいるであろう場所まで走る。あいつはきっとそこで俺を待っている。俺が来るのを黙って待ってる。そんな気がした。

ウィーン

ポケモンセンターのドアが開いた。辺りを見回すと・・・
ふぅ・・・いた・・・
端っこのソファで小さくなっているナツメに声をかける。

「はぁ・・・はぁ・・・ごめん・・・ハァ・・・遅くなった・・・」

その声に反応した彼女は涙が溜まった瞳をこちらに向け

「ひぐッ・・・かえろ・・・」

その一言だけだったが、怒ってはいなかった。少し笑ってるようにも見えたからそう感じたのかも知れない。

「あぁ、悪かったな・・・」

「うぅん・・・ちゃんと迎えに来てくれただけで・・・嬉しいですから・・・ぃぐ・・・」

また泣かしちゃったな・・・これは後で何か奢ってやらなきゃな。

帰りはまたバスで学園まで戻る。帰りのバスの中、ナツメに何で遅れたのかとか取調べを受けるものの、その表情に涙は浮かんで無かった。


さて?なんでナツメがポケモンセンターにいたかと言うとだ・・・
彼女にとって誰かと待ち合わせる際に待ち合わせ場所などで30分以上も一人でいるのは、途中で怖くなり耐えられない事らしく、手持ちのケーシィを呼び出して、テレポートをするんだとか・・・

「ポケモンセンターは何故か落ち着く」

との事
要は極度の寂しがり屋って事なんだが、それを言ったらナツメに全否定された事がある。


学園に戻り、別れ際に言われた一言が俺の耳に残る・・・その言葉のせいで寝苦しい夜がもっと寝苦しくなるかもな・・・


「わかってますから・・・私がどこに行ったって先輩が見つけてくれるって」


「ふぅ・・・こりゃもっとアイツのこと理解してやらなきゃな・・・ポケセン以外に行かれたら大変だわ・・・」

独り言をぼやき、また地獄のように暑い部屋に戻ってきてしまった。事務員さんに故障したことを報告するのも忘れて・・・


結局、ナツメが何をしにデパートまで出かけたのか解からなかったが、彼女の部屋のぬいぐるみが増えていることに気づいたのは少し後のことだった。

                                    〜fin〜

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